キリスト教の聖書とはイエス・キリストとその直弟子達の教説をおさめた書物です。そうした意味では阿含教典は宗祖であるお釈迦さまの教説をおさめたものだから、仏教の聖書に相当する書物と云えるでしょう。ただし問題があります。 阿含経典も後世なると、最初のものに内容を付加したり、削除されたり、解釈が変わったりしているものが多く含まれているからです。
現代の仏教学の主要な課題は阿含経典をお釈迦さま直説のものに修復する事にあると云われます。こうした研究の日本での第一人者と云われるのが、東方学院創設者の故中村元先生です。中村元先生の「原始仏教」(阿含経典)などはまさに仏教の聖書と云えるでしょう。
般若経の作者達は、お釈迦さまは全ての実在を否定したと主張、その理法を空と表現しました。龍樹はその主要な著書「中論」で直感と比喩のみで語られる、般若経の空について、「実在(有)でもなく、虚無(無)でもなく、空なのだ」という「中」の論理をもって「空の論理」を完成した。この空の論理が、般若経以後誕生した全ての大乗経典の基層となりました。
そんな事もあり龍樹は日本仏教のすべての宗派の祖を意味する「八宗の祖」と称され、いずれの宗派にも祖師として尊敬されています。