①悟りを実証するものである事
このため般若心経の作者は、歴史的存在としてのお釈迦さまの修行者としての姿と悟りの内容を、冒頭の「起」で強調した。
さらにまた、誰かが、達成した、完成した、成功したという現実がなければ、この世の中では何ごともおこらない。そうした現実を伝承する仕組みがなければ、歴史の中に埋れて忘れ去られてしまう。
北インドにイスラムが侵入して仏教は滅んでしまった。南インドではヒンズーの中に仏教は埋没して消えていった。
中期大乗仏教の神秘的修行者でもある作者は、人間社会の激変や、長い年月による歴史の風化作用により真理が断絶されることを予期していたのです。
そこで、お釈迦さまの悟りの歴史的意義を後世の修行者に伝えるため、般若心経の冒頭の「起」において簡潔に説いたのです。
これが般若心経の宗教上の第一の意義です。
②仏教の教説をお釈迦さまの真意に回帰させた事
このように実在説と対比する形で、ジナナの思惟とプラジニアの智慧の両面から、お釈迦さまの真意を仏教の本道へ回帰させた。
これが第二の意義です。
③般若心経の神髄を呪として、全ての人の修行ないし信仰上の徳目とした事
般若心経の呪は万能の呪として構成されているのです。
般若心経を残した聖者は、歴史の激変と、歴史の風化に耐える最強の手段として、般若心経にこの呪を与え、お釈迦さまの説かれた真理の永続を願ったのです。
これが第三の意義です。