Hiroko
般若心経の空とはなにか
お釈迦様の悟りと龍樹による再生、般若心経を完成した聖者の真意
お釈迦様の悟りと龍樹による再生
般若心経を完成した聖者の真意

Ⅵ 説一切有部の実在説

お釈迦さまの悟りと教えは、時代と共に精緻に理論化されていった。それが説一切有部によってとんでもない実在説に転化し、それが仏教界の主流になっていきます。

(1)五位七十五法

説一切有部は次のように考えたのです。

お釈迦さまは煩悩の世界と煩悩を絶滅して涅槃に至る道を説かれた。だからこの世は煩悩の世界と涅槃の世界がある。そこで説一切有部は、五蘊、十二処、十八界に涅槃の世界を加えて論理的に整理した。これを存在の要素として五つの領域に大別し、さらに七十五種に分割した。

五つの領域とは物質の領域、心の領域、心の作用の領域、心と結びつかないものの領域、涅槃などの領域です。七十五種の要素は、これ以上分割出来ない究極の存在の構成要素です。

この五つの領域の七十五種の存在要素を五位七十五法と云う。

(2)三世実有・法体恒有(五位七十五法は三世に実在する)

五位七十五法における法(存在)の本体(七十五種の要素)は、過去、現在、未来の三世にわたって実在する。これら存在の本体は恒常的な本質(自性)を保ちながら、いまだ生起あるいは作用を終えてない状態を未来と云う。現に生起あるいは作用しつつある状態を現在と云う。すでに生起あるいは作用を終えた状態を過去と云う。

この七十五種の要素は三世に実在すると云う考え方を三世実有・法体恒有と云います。そして実在する七十五種の本体は森羅万象を構成する要素であり、諸法無我の無我説に抵触しないと主張したのです。

この三世実有・法体恒有説は説一切有部の主要な教義となった説でした。

(3)三世両重の因果説(十二支縁起は三世に実在する)

①此縁性(縁起の法)

縁起の法を最も簡明に表現されたのが次の言葉です。
  • 此れある時此れあり
  • 此れ起こるから此れ起こり
  • 此れない時此れなく
  • 此れ滅すれば此れ滅す

これは四支(四つの条件)をもって表現してますが、後に六支、九支、十支の数で説かれたものもあるようです。いずれの表現にせよ縁起の法とは「物事は他に依存して生成、消滅を繰り返すだけで、固有の性質を変わらない実体としてもつものは存在しない」と云う理法です。

②十二支縁起

縁起の法を人間の無常なる五蘊を説明するために構築されたのが十二支縁起です。十二支縁起は、現実の人生の苦悩の根元を追求し、その根元を断つことによって苦悩を滅するための十二の条件を時間的な縁起と因果の関係で系列化したものです。
  • 1)無明  基本的無知に縁って行、つまり意欲や行為がある
  • 2)行   行に縁って識、つまり意識がある
  • 3)識   識に縁って名色、つまり観念的物質的存在がある
  • 4)名色  名色に縁って六処、つまり六種の認識器官(六根)がある
  • 5)六処  六処に縁って触、つまり意識・感覚対象の接触がある
  • 6)触   触に縁って受、つまり感受がある
  • 7)受   受に縁って愛、つまり渇愛、妄執がある
  • 8)愛   愛に縁って取、つまり執着がある
  • 9)取   取に縁って有、つまり生存がある
  • 10)有   有に縁って生、つまり誕生がある
  • 11)生   生に縁って老死が生ずる
  • 12)老死  老死に縁って無明、つまり全ての苦蘊の集起がある

最初の無明、基本的無知とは縁起の法にくらい事です。縁起の法にくらいから、次に2)~12)に至る経過をたどり、結局、1)~12)を永遠に繰り返すことになる(順観)。しかし逆に縁起の法に目覚めれば2)~12)の条件は消滅して、修行者の現実の最大の恐怖である輪廻も消滅する(逆観)。十二支縁起はこんな教えでした。

③三世両重の因果説

十二支縁起について説一切有部は胎生学的に解釈して、三世に二重に因果関係になっていると主張して、三世両重の因果説をうちたてました。
三世十二支縁起
過去世の因1)無明、2)行
現在世の果3)識、4)名色、5)六処、6)触、7)受
現在世の因8)愛、9)取、10)有
未来世の果11)生、12)老死
<過去世の因>

1)無明は迷いの根本。2)無明から次の識を起こす働き。

<現在世の果>

3)識は受胎の初めの一念。

4)名色は母胎の中で心の働きと身体とが発育する段階。

5)六処は六つの感覚(眼、耳、鼻、舌、身、意)が備わって母胎から出ようとしている段階。

6)触は二~三才ころで苦楽を識別することはないが、物に触れる段階。

7)受は六~七才ころで、苦楽を識別して感受できるようになる段階。

<現在世の因>

8)愛は十四~十五以後、欲がわいてきて苦を避け楽を求めたいと思う段階。

9)取は自分の欲するものに執着すること。

10)有、つまり生存は愛、取の段階とともに未来の果が定まる段階。

<未来世の果>

11)生 と12)老死は未来の果。

(4)説一切有部が最大勢力化

説一切有部は次のように考えたのです。

お釈迦さまは煩悩の世界と煩悩を絶滅して涅槃に至る道を説かれた。だからこの世は煩悩の世界と涅槃の世界がある。そこで説一切有部は、五蘊、十二処、十八界に涅槃の世界を加えて論理的に整理した。これを存在の要素として五つの領域に大別し、さらに七十五種に分割した。

五つの領域とは物質の領域、心の領域、心の作用の領域、心と結びつかないものの領域、涅槃などの領域です。七十五種の要素は、これ以上分割出来ない究極の存在の構成要素です。

この五つの領域の七十五種の存在要素を五位七十五法と云う。

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