Hiroko
般若心経の空とはなにか
お釈迦様の悟りと龍樹による再生、般若心経を完成した聖者の真意
お釈迦様の悟りと龍樹による再生
般若心経を完成した聖者の真意

Ⅹ 般若心経の全訳と宗教上の意義

(1)全訳

起    
観自在菩薩は智慧を完成する瞑想を深く行じていた時、全ての存在の要素が空であることを、ありありと見て、 一切の苦しみとわざわいから解放されて、救われたのである。
承    1節
舎利子よ、色は空と異なるものでなく、空は色と異なるものでもない。色はすなわち空であり、空はすなわち色である。受想行識と空との関係もまた、色と空の関係と同じなのだ。 舎利子よ、諸々の存在の要素は空の性質を持つものだから、実在する要素から生れ出てくるものでなく、虚無の彼方へ滅していくものでもない。それ自体はよごれているものでなく、きよらかなものでもない。 実在する要素から増加したわけでもなく、減少したわけでもない。
承    2節
こうした理由で、空の中では五蘊、六根、六境、六識という存在の要素は実在するものではない。 十二支縁起も実在するということはなく、十二の支分そのものは迷いの中で尽きることがない。存在の要素が実在するという論理のもとでは、四聖諦も成り立たないのである。
転    1節
実在論を説く智には智慧としてのはたらきはなく、涅槃に到る道筋もない。一切皆空という智慧と涅槃を受け入れる依りどころがないからである。だから、修行者は智慧を完成する瞑想の行により心にこだわりがない。心にこだわりがないから、 いつ果てるともない苦悩の輪廻に対する恐れをもつことから解放され、すべての要素は実在するという真理からまるで顛倒した論理と、その論理にもとづく夢想のような教えから遠く離れて、究極の涅槃にたどりつくのである。
転    2節
かの三世に遍在する幾多の諸仏も智慧を完成する瞑想の行により、無上にして完全な悟りを得たのだ。
結    1節
故にここに、智慧を完成する瞑想の呪の価値を知る。是れはおおいなる神秘の呪です。是れはおおいなる智慧の呪です。 是れは至上至高の呪です。是れは万物無比の呪です。能く一切の苦を取り除き、真実にして虚しいことはないのである。
結    2節
故に智慧を完成する瞑想の呪を説く。すなわち呪を説いていわく、ギャー、ギャテー、ハラギャテー、ハラソーギャテー、ボージソワカ、 般若心経

(2)宗教上の三つの意義

①悟りを実証するものである事

お釈迦さまの悟りを、実在説から本来の内容である空へ回帰させたのは般若経を始めとする大乗経典でした。大乗経典には修行者が瞑想の中で会った、あるいは説法するお釈迦さま、あるいは数々の仏(悟った人)が現れます。このため般若心経が誕生する頃にはお釈迦さまの現実的存在感が希薄になっていたと考えられます。

このため般若心経の作者は、歴史的存在としてのお釈迦さまの修行者としての姿と悟りの内容を、冒頭の「起」で強調した。

さらにまた、誰かが、達成した、完成した、成功したという現実がなければ、この世の中では何ごともおこらない。そうした現実を伝承する仕組みがなければ、歴史の中に埋れて忘れ去られてしまう。

北インドにイスラムが侵入して仏教は滅んでしまった。南インドではヒンズーの中に仏教は埋没して消えていった。

中期大乗仏教の神秘的修行者でもある作者は、人間社会の激変や、長い年月による歴史の風化作用により真理が断絶されることを予期していたのです。

そこで、お釈迦さまの悟りの歴史的意義を後世の修行者に伝えるため、般若心経の冒頭の「起」において簡潔に説いたのです。

これが般若心経の宗教上の第一の意義です。

②仏教の教説をお釈迦さまの真意に回帰させた事

② 仏教の教説をお釈迦さまの真意に回帰させた事 「承」において空の意義を簡潔に説き、それに基づき説一切有部の論拠の基になった教説を完璧に否定した。「転」においては、「承」の論旨をふまえて、修行上のお釈迦さまの教えの正しさを強調している。

このように実在説と対比する形で、ジナナの思惟とプラジニアの智慧の両面から、お釈迦さまの真意を仏教の本道へ回帰させた。

これが第二の意義です。

③般若心経の神髄を呪として、全ての人の修行ないし信仰上の徳目とした事

般若心経が誕生する頃、興起してきた密教の最強の呪を与えた。呪は般若心経を護持して読誦し、写経する人々に大きな力を与えるものとして定められた。超人的な学習能力を求める修行者にはその能力を与える。諸仏と自己を一体化させて悟りを求める修行者にはその道を拓く力を与える。除災招福を願う在家信者にはそれを叶える。

般若心経の呪は万能の呪として構成されているのです。

般若心経を残した聖者は、歴史の激変と、歴史の風化に耐える最強の手段として、般若心経にこの呪を与え、お釈迦さまの説かれた真理の永続を願ったのです。

これが第三の意義です。

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